弱い立場だからこそ逃れられない苦しみがある

  留学先で出会った中高年で妻子持ちの駐在員に「二人で旅行に行かない?」「付き合わない?」と言われ、二人での食事にしつこく数か月にわたって誘われました。こんなことが起こらなければ、もっと有意義で充実した留学生活になったのではないか、と今でも悔しい思いをすることがあります。

 その駐在員と出会ったのは、留学生と現地駐在員との交流会でした。ちょうど私がいたテーブルに彼がいたので少し話しましたが、高圧的で学生を見下す態度が気になりました。その時、後で連絡ちょうだいと彼から名刺をもらいましたが、いい印象ではなかったですし、特に伝えることもないので連絡しませんでした。

 ある日、その駐在員から二つのSNSを通じて、連絡が取りたいというメッセージが来ました。電話で伝えたいことがあると言われたので、不信に思いつつ電話に応じました。はじめは留学生活や学業のことを聞かれました。しかし、旅行の話になると「二人で旅行に行こう」と誘われ、今度知り合いの有名人が日本から来るという話になると「その人を紹介してあげる。でもその前にあなたのことを知りたいから二人で食事に行こう」と言われました。その他、耳を疑うような発言を繰り返されました。

 電話の内容に衝撃を受けたので友達にその人のことを聞くと、以前、留学生にセクハラをしていた人だったと分かりました。一部の留学生の間では周知の事実だったそうですが、私はその情報を知りませんでした。ただ、普通に生活していれば彼とは直接接触しないので、そのまま数か月間、送られてくるメッセージを上手くやり過ごしていました。すると彼も興味がなくなったのか、連絡が途絶えました。

 この状況でも、私が幸運だったのは周りに頼りになる友人や他の駐在員が沢山いたことでした。大学教授や留学中の友人に、このことを伝えて相談に乗ってもらっていたので精神的には多少なりとも救われました。しかし、数か月の間は連絡が来るたびに鬱々とした気持ちになっていました。それは、きっぱりと断ることが出来なかったことが原因です。その駐在員は社会的に非常に地位の高い人だったので、私の留学生活や就職活動に影響が出ないような対応を続けなければいけませんでした。相手を刺激しない言葉を選ぶ必要があり、返信に多くの時間を割かれました。実際に「NO」と言えても自分の立場を考慮すると言えないことや、断固とした拒絶を示すことが最善の解決策ではないことに気づいたときは、沼にはまったような自分の状況に愕然としました。

 学生は社会人よりも弱い立場です。そして、そう簡単に大人の行動は変えられません。だから非常に理不尽ではありますが、まずは私たち留学生がそのことを充分理解して自分の身を守る努力をする必要があります。同時に今後、学生が性被害に怯えることなく学業に集中して留学できるような環境、弱い立場であってもはっきりと「NO」が言えるような社会づくりが進むことを強く望みます。

  最後に、小さな体験談ではありますが、皆さんに共有することでこの問題の解決への小さな一歩となりますように、そして嫌な思いをする学生がこれ以上増えませんように、心から願っております。(Cさん)